睡眠不足が原因の居眠り運転の恐ろしさ。

 世間では、飲酒運転に対する注意喚起は活発になされているが、睡眠不足における運転に対し、あまり注意喚起がなされていないように思える。

 実際に、居眠り運転が原因の自動車事故が多く発生しているにもかかわらず。

 この件について、2017年、アメリカ、イギリスにおいて大変な反響があり、かつ大変話題になった書籍「睡眠こそ最強の解決策である マシュー・ウォーカー著 桜田直美訳 SB Creative」の中で著者のマシュー・ウォーカー氏は書籍のなかで「なぜ先進国では自動車事故が多発するのか」という章を設け、次のように主張されている。

飲酒運転と居眠り運転はそれぞれ単体でも十分に危険だ。

 この二つが組み合わさったら一体どうなってしまうのだろうか。

 飲酒運転は昼間ではなく夜中に発生することが多いので、飲酒運転のドライバーは大抵睡眠を奪われている状態だと考えられる。

 だからこの問題を検証しておくのは社会的に意味があるはずだ。

 安全に実験を行うためにここではドライビングシュミレーターを使用した実験の開始にあたり、まず被験者を四つのグループに分ける。

 グループ1は8時間睡眠、グループ2は4時間睡眠グループ、グループ3は8時間睡眠で法定基準を超える血中アルコール濃度、そしてグループ4は4時間睡眠で法定基準を超える血中アルコール濃度だ。

 8時間睡眠でアルコールを摂取していないグループは運転ミスがほとんどなかった。

 4時間睡眠でアルコールを摂取していないグループは8時間睡眠で素面のドライバーに比べ運転ミスが6倍に増えた。

 8時間睡眠でアルコールを摂取しているグループも同じような結果になった。

 睡眠不足のドライバーと睡眠は足りている通っているドライバーは同じくらい危険だということだ。

 それではグループ4の睡眠不足で酔っているドライバーはどうなのか。

 寝不足だとミスが6倍になり、酔っていてもミスが6倍になるのだから、単純計算でミスは12倍になると思うかもしれない。

 しかし結果は12倍どころではなかった。

 運転ミスで走行車線の外に出てしまう回数が8時間睡眠のドライバーに比べて30倍にもなったのである。

 アルコールと睡眠不足の影響は足し算ではなく、掛け算で増えていくということだ。

 30年にわたる詳細な研究の結果、今では睡眠にまつわる疑問の多くの答えが出ている。

 例えば人間のリサイクル率はおよそ16時間だ。

 16時間起きていると脳の機能が下がり始める。

 認知力を維持するには1日に7時間より長い睡眠が必要だ。

 7時間以下の睡眠が10日続くと、脳の働きは24時間起きていた時と同じレベルにまで低下する。

 そして最後に、寝不足の状態にある人は自分がどれほど寝不足か分かっていない。

 能力の低下を自覚できない。

 現実世界における居眠り運転の詳細について少しだけ触れておこう。

 今から一週間の間にアメリカでは200万人以上のドライバーが居眠り運転をする。

 1日あたりでは25万人以上であり、週末よりも平日の方が多い。

 一か月に5600万人以上のドライバーが運転中に眠気に襲われたと認めている。

 その結果、アメリカでは居眠り運転による自動車事故が年間で120万件も発生している。

 表現を変えると、あなたがこの文章を読んでいる間にもアメリカでは30秒に一件の頻度で睡眠不足が原因の事故が発生しているということだ。

 この文章を読み終わる頃には、誰かが居眠り運転で命を落としている可能性は十分にある

 誤解しないでもらいたいのだが、私は飲酒運転を軽視しているのではない。

 飲酒運転はとても危険であり、飲酒はとっさの判断を遅らせることは紛れもない事実だ。

 酔っ払ったドライバーはブレーキを踏むのも、事故を避けるためのハンドル操作も遅くなる。

 しかし、居眠り運転の一番の問題は、全く反応しなくなることなのだ。

 運転中、急にマイクロスリープを経験したり、または完全に眠ってしまったりすると、そもそもブレーキを踏むことはない。

 それに事故を避けるハンドル操作もしない。

 その結果、居眠り運転による事故は飲酒運転による事故よりもはるかに致命的な状況になる。

 過激な例えで申し訳ないが、ハイウェイで居眠り運転をするのはミサイルが時速100 km 以上で暴走しているのと同じようなものだ。

 居眠り運転による悲しい事故、居眠り運転が最も大きな問題になっているのは自家用車ではなくトラック運転手だ。

 アメリカのトラック運転手は体重で約50%は病的な肥満に分類される。

 太りすぎは睡眠時無呼吸症候群のリスクが格段に高くなる。

 この病気は大きないびきをかくことが特徴で、患者は慢性的な睡眠不足を抱えている。

 その結果、太り過ぎのトラック運転手は事故を起こす確率が200%から500%も上昇するのだ。

 そして、彼らが自分の居眠り運転による事故で死亡する時平均して4.5人を道連れにしている。

 疲労や居眠り運転による事故は、厳密に言えば、アクシデントではない。

 居眠り運転による死亡事故は偶然ではなく、原因もはっきりしている。

 完全に予測できることであり、原因が睡眠不足であることは明らかだ。

 つまり起こる必要のない事故であり、完全に防ぐことができる。

 しかし、残念ながら、先進国のほとんどの政府が、居眠り運転の危険を国民に教育する活動にほとんど予算を使っていない。

 飲酒運転防止の教育にかける予算の1%以下だ。

 しっかり伝えようとしても数字ばかりでは深刻さは伝わらない。

 たいていの人は、遺族の体験を聴いたりして、初めてこの問題を身近に感じることができる。

 私はこのような悲劇の例を何千と知っている。

 読者が居眠り運転の悲劇に見舞われないことを願いながら、そのうちの一つの物語を紹介させてもらいたい。

 2006年5月、フロリダ州で9人の児童を乗せたスクールバスが赤信号で止まった。

 その後ろで7人を乗せた車も同じように赤信号で止まった。

 大型トラックが後ろから近づいてきた。

 トラックは止まらなかった。

 まず、すぐ前の車に追突し、その上に乗り上げ、さらにスクールバスに追突した。

 トラックはそれでも止まらず、車を引きずり、スクールバスを押しながら進んだ。

 車は爆発して炎に包まれた。

 スクールバスは、反時計回りに回転して反対車線に押し出された。

 そのままバックするように100 メートルほど進み、大きな木に激突して、やっと停止した。

 その衝撃でバスに乗った9人の児童のうち3人が窓から外に飛び出した。

 車に乗っていた7人は全員が死亡した。

 バスの運転手も死亡した。

 トラックの運転手と9人の児童が皆重症を負った。

 トラックを運転していたのはきちんとした資格を持つドライバーだった。

 血中からアルコールもドラッグも検出されなかった。

 しかし、後から判明した事実によると、その運転手は事故の時点で、34時間連続で起きていた。

 事故の原因は居眠り運転だったのだ。

 車に乗っていた亡くなった7人は全員が小さな10代の子供だった。

 そのうちの5人は家族だった。

 運転していたのは7人の中で最年長の十代の子供で免許は持っていた。

 一番若い犠牲者は12ヶ月の赤ちゃんだった。

 読者の皆さんにこの本から学んでほしいことはたくさんある。

 その中でも一番学んで欲しいのは

 運転中に眠くなったら絶対に車を停めるということだ!

 これは命に関わることだ!

 他人の命を奪うことになったらその十字架を一生背負っていくことになる!

運転中に眠くなった時の対策はいろいろ言われているが、そのどれも信じてはいけない!

意思の力で眠気を抑えられると信じても残念ながらそれは間違いだ!

この嘘を信じていると、自分の命だけではなく同乗している家族や、友人の車に乗っている人の命まで危険にさらすことになる!

 人生でたった一度ハンドルを握りながら、うとうとしただけで、命を落とす人もいるのだ!

 運転中に眠くなってきたら、実際に眠ってしまったら、その夜はもう運転しないこと!

 どうしても止まるわけにはいかず命の危険があるという事実を考慮しても、まだ運転するという判断をしたのなら、車を安全な場所に停めて、20分から30分の仮眠を取る。

 そして目を覚ましてもすぐに運転を始めないこと。

 寝起きのだるさが残っている。

 体を更に20分から30分待ち、運転するのはそこからだ。

 しかし、それで完全に眠気がなくなるわけではない。

 またすぐに同じような仮眠が必要になるだろう。

 そして回を重ねるごとに仮眠の効果は薄らいでいく。

 疲れている時に、命をかけてまで運転することはないということだ。」

参考文献

「睡眠こそ最強の解決策である マシュー・ウォーカー著 桜田直美訳 SB Creative]

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